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CFDの非定常解析による室内VOC濃度分布の考察

CFDの非定常解析による室内VOC濃度分布の考察 

一般社団法人日本環境測定分析協会主催

平成21年度・第17回 日環協・環境セミナー全国大会 in 京都

発表日:平成21年9月18日

掲載紙:「環境と測定技術 」vol.38 No.5 p14-18( 2011)

要旨

1.はじめに
近年、住宅の建材などに含まれる揮発性有機化合物VOC(Volatile Organic Compounds)による健康障害、いわゆるシックハウス症候群が問題になっている。VOCは室内において、拡散、対流などの要因によってさまざまな濃度分布を示すと考えられるが、この挙動を把握することにより、人体への影響やシックハウス対策について有効な知見を得ることが期待できる。
本研究では、シックハウス原因物質のひとつであるトルエンを例にして、実際のVOC測定結果に合致するCFD(Computational Fluid Dynamics)の非定常解析条件について考察したので報告する。
 

2.結果
2.1 解析モデル

 CFD解析および実験をおこなう対象としてビル内の一室を選んだ。
部屋の大きさは、間口6.30m×奥行3.95m×高さ2.49m(内容積:62㎥)であり、部屋中央付近の机にトルエンを入れたビーカーを設置してVOC蒸気発生源とした。
トルエンの濃度分布の推移をCFD非定常解析で予測した。部屋のCFD解析モデルを図1に示す。

 

2.2 VOC測定
活性炭吸着材を用いてVOC濃度を測定した。空調はせず、閉鎖した室内という条件で、合計11ケ所を測定点とした。(図2)
実測したトルエン濃度を図3に示す。高層-中央の濃度が高く、他の測定点はほとんど同等であった。トルエン蒸気の空気に対する相対蒸気密度が3.1と高いことから、ビーカーから発生したトルエン蒸気は、下方向に流れていき部屋の下層に滞留するというのが一般的な予想であるが、実測結果は異なるものであった。
 

2.3 非定常解析
実測結果が予想と異なった原因を次のように推測した。すなわち、トルエン蒸気は空気と混合しやすいことが知られており、混合気体として充分希薄になれば、上方に拡散する可能性がある。
そこで初期条件として、ビーカー上面においてトルエンが希薄な混合気体であると仮定して非定常解析をおこなった。結果を図4に示す。
ビーカー上面における気中トルエン濃度を0.3ppmvと仮定した場合、ビーカーから発生したトルエン蒸気は、上方向に放出された後、部屋全体へ拡散していくという予測になった。このことから、トルエンの蒸発後は濃厚な蒸気にはならず、きわめて早い段階で空気と混合し、低密度の混合気体として拡散すると考えるのが妥当である。
 

 

3.まとめ
CFDの非定常解析によって、室内トルエン濃度の推移について検討した。トルエン蒸気を希薄な混合気体として扱う条件にて解析をおこなった結果、実測の傾向に近い予測が得られた。トルエンは、拡散しやすいことが示唆されたことから、例えば換気などによってシックハウス対策をおこなう際は、室内下方への滞留よりも上方への拡散に注意すべきであることが分かる。
CFDの手法は、気体の動きを可視化して示すことができる有効なツールである。今後、実測データとの比較を通じてCFDの予測精度が向上すれば、環境分析や住居設計などさまざまな用途についての応用が可能であろう。